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今回掘っていくのは、Leeのペインターパンツの代名詞「191Z」。1960年代後半と思われる個体です。

ペインターパンツというと、僕の中ではあくまで「道具」のイメージが強い。装飾性よりも、塗装業や大工が現場で使うための機能の集合体。その骨格をいちばん素直に見せてくれるのが、Leeの191Zだと思っています。

タグには商標登録を示す「R」と「M.R.」表記が含まれていて、表記の上では1970年代の入口にも見えます。ですが、リベットや縫製の細部を見ていくと、ほぼ間違いなく60年代後半の純然たるワークウェアの作りなんですよね。タグと中身がほんの少しズレている、こういう過渡期の個体は掘っていてかなり楽しい。

なお、ヴィンテージは個体差が大きいので、以下に書くことはあくまで「この一着の話」と捉えていただければと思います。


Jelt Denimという機能生地 — 1925年の合理

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191Zの核にあるのは、間違いなくこの「Jelt Denim(ジェルトデニム)」です。

Lee公式の資料によると、Jelt DenimはCanton Mills(ジョージア州キャントン)と共同で1925年に開発された機能生地。糸を強くねじって織り上げることで、引き裂きや擦り切れに強い構造を作っています。重量は11.5oz。一般的な13ozクラスのワークデニムと比べると、明らかに軽い。にもかかわらず、堅牢性は保たれている。

つまり、「軽さ」と「丈夫さ」を両立させるための設計なんですね。重労働で長時間動き回る前提で、生地そのものの仕様から逆算されているわけです。「Jelt」という名前が商標登録されたのは1933年だそうで、生地そのものに名前を付けて商標を取るというのは、それだけブランドとしての投資だった、ということなんだと思います。

ちなみに、この生地はSanforized加工が施されていて、洗濯による収縮もある程度抑えられている。労働者が買って洗って、すぐに穿けるという、当時としてはかなり実用的な設計です。

裾のシングルステッチも、いま見ると工業的な効率というより、シンプルな道具としての潔さを感じます。

UFOリベットとTALON 42 — 過渡期の骨格

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ポケット口の補強に打たれているのが、通称「UFOリベット」と呼ばれるタイプの金属リベット。中央が膨らんだ独特の形状で、まさに円盤型のUFOっぽいんです。

このリベットがおもしろいのは、1970年代に入るとコスト削減と生産効率化の波で、徐々にバータック(カンヌキ止め)へと簡略化されていく、という点です。つまり、UFOリベットがついている時点で「金属リベットでしっかり止めるのが当たり前」だった時代の名残を引きずっている個体だということ。

道具としての無骨さがそのまま残っている、と言ってもいいんじゃないかと。

ジッパーは、アメリカン・ワークウェアの象徴のひとつ「TALON 42」。オートマチックロック式と呼ばれる仕様です。

Wikipediaなどの資料によると、TALON 42は1960年代に登場したオートマチックロック機構を持つジッパーで、当時はリーバイスをはじめ多くのアメリカ製ジーンズに採用されていました。スライダーを引かずに横方向に揺らしても、勝手に開かない。当たり前のように使われていますが、これが「労働中にジッパーが下がってこない」という安心感を生んでいるわけです。

タグの表記が過渡期を示しているのに、ジッパーには60年代の象徴であるTALON 42が乗っている。骨格そのものは、明らかに60年代の設計思想です。

ウエストのボタンには、当然のごとく「Lee」の刻印。ステンシルというよりは、しっかり打刻された立体的な刻印で、これも年代の手触りがあります。

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リベット配置の妄想 — シームを跨ぐ意図

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ここからが、僕がいちばんテンションの上がるパートです。

このリベット、よく見るとシーム(切り替え線)の上を跨ぐように打たれているんですよ。前明きファスナー脇のリベット、ウエストベルトとの境界のリベット、コインポケット周辺のリベット。一見すると、打ち損じというか、ズレているようにも見える配置です。

最初は「設計ミスかな?」と思いました。でも、同年代の個体を見ていくと、複数の個体で同じような配置が確認できる。となれば、これは明確な製造意図があると見て、ほぼ間違いない。

意図はおそらく二つあって、ひとつは「最大応力点への直接補強」。ポケットの端というのは、構造的に最も負荷がかかる箇所です。そこに、あえて生地が複数枚重なる段差部分(シーム上)を貫通させる形でリベットを打つことで、構造的な剛性を極限まで高めようとした、というのが一つの仮説。

もうひとつは「ポケット口の有効幅の確保」という見方です。リベットを内側に逃がさず、境界線ギリギリで固定することで、厚手のグローブを嵌めた手や、大きな工具をポケットに突っ込んだときの干渉を最小化する。これは、ペインターパンツが「現場の道具入れ」として使われていたことを考えれば、非常に合理的な設計です。

どっちが正解、というよりも、両方が同時に作用している、と妄想しています。こういうところに、当時の作り手の思考がにじんでいる気がして、心くすぐられてしまうんですよ。

裁ち切りとロックの混在 — 効率と構造のあいだ

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解体すると見えてくるのが、縫製仕様の「混在」です。

サイドシームやインシームといった主要な縫製箇所は、巻き縫いを採用することで、ロックをかけずに端処理を構造的に完結させている。一方で、ファスナー開閉時にスライダーと干渉してほつれやすい前立て裏や、前ポケットの向う布端には、明確にロック始末が施されているんですね。

つまり、「表から見えず、ほつれの影響が少ない箇所はそのまま裁ち切り。表に出る箇所はロック」という使い分けです。

インシームのチェーンステッチは、いかにも当時のワークウェアらしい音がする縫いです。チェーンステッチは生産性が高く、なおかつ太い糸を使えるので、ワークウェアの主要な縫製部によく採用されてきました。

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ポケットの袋布まわりはさらに興味深い。袋布の地縫いは、手間のかかる袋縫いではなく、インターロックで一気に縫い合わせる仕様。これは効率重視の仕様変更ですね。

ただ、端から糸が長く垂れ下がっている点に注目したい。これは「空環(カラカン)」と呼ばれる仕様で、ほつれやすいチェーンステッチの特性上、あえて長く残しておくことで、結び目を作る手間を省きつつ、解け防止の役割を果たしているわけです。

省くところはきっちり省いて、残すべきところは構造的に残す。この使い分けが、ワークウェアとしての191Zの誠実さを物語っているんじゃないかと。

pocket_side_entry_bartackフロントのポケット口は、約2cm強という「広い幅の三つ折り」で、ダブルステッチ始末。この広さは、繰り返し工具を出し入れすることを前提にした、現場目線の補強だと思います。


一筆縫い — 背筋が伸びるほどの興奮

当時のヴィンテージを観察していると、現代の常識的なモノづくりではちょっと考えられない「一筆縫い」が散見されます。今回、この191Zでもその痕跡を発見することができました。

それは、脇の「ツールポケット付け」から「バックポケット付け」に至る工程が、一度も糸を切らずに一筆で縫われていた、という事実です。

正直、これに気が付いたときには背筋が伸びるほど興奮しました。

これって、効率を求めた結果だと思うんですが、そこから一歩踏み込んで「複数の付け工程をひとつのパスにまとめてしまう」という発想は、もう完全に作り手の知恵です。

可縫製の極み、と言ってもいいんじゃないかと。

これは実は、解体しなくても、裏側をよく観察すれば糸の連続性で読み取れるディテールです。ヴィンテージを掘るときに、こういう一筆縫いの痕跡を探すだけで、当時の工場の仕事ぶりが見えてくる。最高にテンション上がります。


グレーディングとベルト処理 — 体型ピッチの痕跡


この個体は、本来のシルエットについて一概に語ることが難しい。というのも、かなり大きいインチサイズだからです。

いわゆるペインターパンツらしい「ズドンと落ちるライン」ではなく、裾に向けてテーパードしているように見える。これは、サイズが大きい個体特有のシルエットだろうと思います。

ですが、この一点から見えてくる興味深い事実もあります。当時のグレーディング(サイズ展開)は、単純な数値の均等操作ではなく、体型の変化を意識したピッチを設定していたであろう、ということです。

現在でもサイズ展開が広い場合、特に股下において均等ピッチではなく変則的な調整を行うことが多いように思います。当時のLeeも、おそらく経験則として「インチが大きくなれば、股下や太もも周りの増え方は変わるべき」という設計を内包していた。これは僕の妄想ですが、こういう細部の整合性を見ていると、ペインターパンツが量産品でありながら、職人の手が抜かれていない理由がわかってくる気がします。

ベルトループは、ダブルステッチで本体に固定されています。バータックが本体側の根元にもしっかり打たれていて、工具を引っ掛けたり、重い腰袋を吊るしたりする現場使用に耐える作り。belt_loop_double_stitch

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そういえば、ベルト先の仕様にも触れておきましょう。先端が4.5cm程度飛び出して、折り返して処理されています。今回はその仕様の良し悪しというよりも、こうしたベルト始末の細部にこそ、その年代の空気感やブランドごとの趣向が垣間見える、という点が重要です。

ベルト先の処理ひとつとっても、年代やブランドで微妙に違いが出る。こういう違いが、ヴィンテージを観察するときの楽しみのひとつです。


まとめ — 過渡期の正直さ

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Lee 191Zの1960年代後半個体は、振り返ってみると「過渡期の正直さ」が魅力なんじゃないかと思います。

タグの表記は70年代寄りに見えるのに、中身は60年代の設計思想。UFOリベットがそのまま残り、TALON 42が乗り、一筆縫いが生きている。それぞれの仕様が、合理性と効率と職人の知恵のあいだでせめぎ合っている、その均衡点に立っている個体です。

リベットの配置ひとつ、袋布の処理ひとつ、ベルト先の4.5cmひとつ。すべてに「なぜこの仕様にしたか」という問いが内包されている。それを読み解いていく作業は、結局、当時の作り手と対話する作業に近いんじゃないかと思います。

ペインターパンツって、こんなに掘り甲斐があるアイテムなんだ、と改めて思いました。

というわけで、今回も楽しかった!!

Lee 191Z これにて。