新しいデニムを作っています。
名前は RE。デリバリーは2027年1月の予定です。

ここまでの開発の記録を、3回に分けて書いていきます。

第一回は、製品の話をする前に、捻じれの話から始めます。
デニムがずっと抱えてきて、誰にも歓迎されてこなかった現象の話です。

デニムを穿いて、洗う。すると脚が回ります。

切り替え線が捩れて、前へ、横へ、動いていく。レッグツイストと呼ばれる現象です。

今では経年変化の一部として語られることもありますが、
当時これを歓迎した人は一人もいませんでした。

原因すら、分かっていなかったからです。

濡れ衣を着せられていたのは、人だった

捻じれの正体は、綾織という組織そのものが糸に溜め込む張力です。
織った瞬間から生地の中に仕込まれていて、最初の洗濯で解放されます。
物理現象であって、誰の失敗でもありません。

ですが業界は数十年、それを知らなかったようでした。

捻じれの責任は、裁断と縫製の慣行にあると信じられていたんです。
つまり、縫製工場とパタンナーの失敗だと。地の目を合わせろ、ノッチを守れ。

濡れ衣を着せられていたのは、生地ではなく、人だったわけです。

一方で、生地の仕上げ工程の側には緯糸矯正機という機械がありました。
緯糸が経糸に対して直角からズレれば、検知して、戻す。それだけのための装置です。

アメリカの職業辞典によると、
WEFT STRAIGHTENER──緯糸を直角に戻す係──という職業まで登録されていました。

斜めは欠陥。直角が正義。

耳付きなんだから地の目や縫製が原因な訳無くねって感じはするし、
どこまでが真実かは分からない所もある気がしますが、

ジーンズ用の生地に意図的な斜行を入れることは、業界で scrupulously avoided──几帳面に避けられてきた。そう Levi's 自身が特許に書いています。

織りで殺す

1964年、Wrangler は捻じれを打ち消すためにブロークンツイルを商品化しました。

綾の方向を交互に折り返し、トルクを組織の中で相殺する。
捻じれは、織りの段階で殺されたわけです。

それでも501は回り続けました。Levi's が3×1の綾を捨てたくなかったからと推測しています。

どれくらい回り続けたのか。
Levi's は特許の背景欄で、レッグツイストを理由とする返品が年間十万本を超え、返品せずに不満を抱えたままの客はその少なくとも六倍にのぼると推定しています。

推定値であり、出願人自身の申告です。
発明の必要性を主張する文書なので、控えめに書く理由はありません。
それでも、数字を出さなければならないほどの問題だったことは伝わってきます。

仕上げで殺す

1970年代初頭、Levi's はようやく研究者を付けます。

その研究者が突き止めたのは、原因は縫製ではなく生地の張力だという事実でした。

そして発明されたのが、プレスキューです。捻じれる方向へ、あらかじめ生地を斜めに振っておく仕上げ。右綾なら反時計回りに、生地幅の8%。直角に戻すための矯正機を、逆向きに使う発想です。

最初の試験では、市販の矯正機が「戻す」ためにしか作られていなかったせいで、8%まで振り切れませんでした。その記録が特許に残っています。

1976年、特許成立。

特許はレッグツイストを troublesome と形容しています。
厄介事。愛でる言葉は、どこにもありません。

縮みには物語が与えられた

そして、もう一つあります。

シュリンクトゥフィットという言葉を聞いた事があるでしょうか?
洗って縮んで体にフィットするんだよ。というジーンズのセールスコピーの一つです。

シュリンクトゥフィットという言葉は、縮みだけを商品にしました。

洗って、縮めて、体に合わせる。縮みには物語が与えられています。
買った人が完成させる、という物語です。

捻じれには、何も与えられませんでした。

同じ水、同じ一回目の洗濯で起きる二つの変化です。
片方は売り文句になり、片方は厄介事になった。

この非対称が、すべてを語っていると思います。

捻じれは最後まで、計算の外にいました。


REの生地開発では、解体したBIG Eを解析に出し、その数値で一反織っています。なぜ狙った生地にならなかったのか——研究側の記録は服ヲ掘ルに書いています。「70年分の厚みは、織れない」