前提の束を、ほどいて結び直す
RE DENIM 開発記録 #03
#01 で、捻じれは最後まで計算の外にいたと書きました。
織りで殺され、仕上げで殺され、それでも語られることはなかった。
FUKUBORI は、この捻じれを起こす生地とパターンの側から向き合います。
織りでもなく、仕上げでもなく、型紙で。
ビンテージ501は、複数の前提の束である
ビンテージ501というのは、一着の服の名前であると同時に、いくつもの前提が認識され、それが束になったものです。
セルビッジであること。
ボタンフライであること。
リベットが打たれていること。
縮むこと。
捻れること。
染めの色が落ちること。
それぞれは独立した判断で、それぞれに理由があります。
それらがワークウェアという枠組みに束ねられて、一着になっているだけです。
再解釈とは、この束を一度ほどいて、結び直すことだと考えています。
全部を変えれば、別の服になる。何も変えなければ、複製になる。
多くの前提を残したまま、僕が焦点を当てたのは捻じれでした。
反転させたのは、捻じれの前提
シュリンクトゥフィットは、捻じれを示さない。
これが、今回反転させた前提です。
縮みだけが商品になり、捻じれは計算の外に置かれた。
その線引きを、こちら側に引き直します。
生機の生地を使い、シュリンクトゥフィットを殺すことなく、捻じれと向き合う。
当時は問題視された捻じれが、時を経てVintageデニムの当たり前であり、それが味であると表現され、愛されている。
今となってはそれはVintageとして外せない要素。
VintageLoverの一人として、その魅力は痛いほど分かります。
ですが今回はシュリンクトゥフィットと同じように前提を置きなおします。
それが、
完成の場所です。
ただ、ここは誤解されやすいところなので、はっきりさせておきます。
シュリンクトゥフィットのジーンズなら、どれも洗えば縮みます。
揉み洗いして体に合わせる。
ねじれも同じように扱います。
洗い後に自然な形になる。
当時、洗ったときに起きる捻じれは事故という側面もありました。
どこへどれだけ回るのかを、誰も設計していません。
だから矯正機で直角に戻し、プレスキューで打ち消してきました。
#01 に書いたとおりです。
この製品は、捻じれを消していません。戻る方向に構築しています。
最初の水を通したとき、捻じれが動きます。その動いた先が、設計した形です。
捻じれが動き切った状態が、完成です。
そしてその完成までの変化は皆さんの手元で。
尻という副産物
捻じれを調整する構造を構築していく上で、得た物があります。
尻ぐりのカーブです。
ビンテージ501の尻は、かなり直線で構築されています。
型紙の目線で見るにあたって、最大の特徴と言っても過言ではありません。
数字で言います。
以前、解体した5型の尻ぐりを型紙に起こして測ったことがあります。
尻ぐりカーブの最大深さです。
| カーブの最大深さ | |
| 501XX-47 | 17mm |
| 11MWZ | 28mm |
| 101Z | 32mm |
| 517-66後期 | 34mm |
| 701 | 56mm |
※出来上がり線で計測。
解体した個体それぞれの型紙を起こして測ったもので、実寸はサイズによって変わります。僕個人の補正が入った上での数値であり、当時を保証する数値ではありません。個体のサイズ表記は記録に残っていないものがあるため、ここでは記しません。
501だけが17mm。
他は28mmから56mmに散らばっています。
501の尻ぐりは、比較の中で明らかに直線寄りです。
なぜ直線なのか。巻き縫いや裁断などの効率です。
デニムの縫い代は、左右で幅が違います。
巻き込みながら縫うので、線がカーブしていると左右で外径と内径に差が出て、縫いづらくなる。パンクと呼ばれるB品の原因にもなります。
直線であれば、その差が生まれません。
裁断でも直線的であればあるほど、裁ちやすいです。
つまり501の直線は、美意識ではありません。
生産全体への回答です。
しかし、人の体は直線ではありません。
極端に言えば、完全な直線というものは体に存在しない可能性すらあります。
もちろん人それぞれの体型に依存しますが、尻から股下の付け根に向かう部分は、丸みの最たる箇所の一つと言っていいと思います。
その丸みを捉えるカーブは、ない。
そんな風に考えてもらえたらいいです。
ただし、直線的だからこうなる、と言い切ることはできません。
ウエストをどこで穿くのかが、かなり大きく影響してくるからです。
ハイウエストで、上までギュンギュンに上げて穿く。
ゆったり腰まで落として穿く。
大きく分ければ、この二択になります。
尻が直線的ということは、尻の丸みを捉えていないということです。
だから上げて穿くと、丸みに食い込みます。
腰で穿く場合は、パンツ自体の股の付け根と、実際の体の股の付け根との距離が離れていきます。
それによってゆとりが生まれ、食い込みは解消されます。
ですが丸みを捉えてはいないので、今度は余る。
おむつのような形状のシルエットが生まれることになります。
結論として、僕は501を、腰で穿くパンツだと考えています。
あくまでこの二つは両極の話です。
選んだサイズ、それぞれの骨格、そもそものシルエット。
色んなことが絡み合って、様々なケースがあります。
そこは認識しておいてもらえると嬉しいです。
そして、これは未洗いのジーンズでは観測が難しいです。
糊がついて硬いのでシルエットが出ません。
デニムは洗うと縮むので、最終的な形ですらありません。
僕から見れば、それは良さでもあります。
ビンテージのあのシルエットは、直線から出来ている。
それは最大の「らしさ」でもあると考えている。
だからこそ、必然でしか消せない呪いにもなります。
今回は、耳を使いつつ意図的に捻じれを作るという構成において、直線的に作ることが不可能でした。
縫い合わせる箇所は、ある程度までパーツ同士の繋がりを滑らかにする必要があります。
端的に言えば、凸凹になっている物同士を、向きだけ合わせて合体させることはできない。とはいえ布なので、ある程度は融通が利きます。
そして、捻じれを補正するために左右の形を変えたことで、その縫い合わせの調整が必要になりました。
必然として、尻にカーブが生まれることになりました。
同じ方法で、今回の型紙を測りました。サイズ2。
37.7mm。501の2.2倍です。
後ろ中心の倒し角のほうは、501からほとんど動いていません。
動いたのは、カーブの深さだけです。
面白いのは、この動き方に前例があることです。
517はブーツカットにするにあたって、倒し角をほぼ据え置いたまま、カーブの深さだけを動かしています。501の17mmに対して、517は34mm。ちょうど倍の深さです。
今回とほとんど同じ改変です。
ただし517は、狙ってそうしました。
カウボーイの馬上での細かい振動に対応するためだった、と過去に何かで読んだことがあります。
こちらは違います。
捻じれを扱った構造上、直線が引けなくなった。
目的が違うのに、数字がほぼ同じところに着地しました。
そして正直に書いておきます。この37.7mmは、5型の中でも深い方です。
11MWZより、101Zより、517より深い。
より深いのは701だけですが、あれは別系統として見ています。
婦人向けとして体に合わせるために深くした尻ぐりで、ワークウェアの流れの上にはありません。
つまり、701を除いたワークウェアの流れの中では、今回が最も深いということです。
501の最大の特徴から、最も遠いところへ行ってしまった数字でもあります。
実は、これにより得たものは、相当に大きいです。
腰穿きならおむつ形状の軽減。
上げて穿くなら食い込みの軽減。
体型に依存するので、解消ではなく軽減という表現にとどめておきます。
反面、形状として最大の特徴の一つを失うことになります。
ですが、その魂は決して失っていません。狙って引いた線ではない。
捻じれを扱った構造上、そうなった。
必然が作り出した結果なのですから。
自分で作りながら、自然とたどり着いたこの結論に震えました。
これは FUKUBORI と呼べるのか
ここまで読んで、疑問が湧いた人がいると思います。
元ネタと違い過ぎないか、と。
尻ぐりの数字を出した以上、正面から答えないといけません。
ここまでの変更を加えてFUKUBORIの編集と言えるのか?
まず、前提を一つ確認させてください。
この一本の元ネタは、実は501ではありません。リーバイス RED です。
RED は、ビンテージを再解釈するにあたって、その代表として501を選んでいます。
501はそこで参照された対象であって、写す対象ではありませんでした。
僕が応答しているのは、RED のその態度です。
だとすれば、問うべきは「501からどれだけ離れたか」ではありません。
再解釈として筋が通っているかです。
FUKUBORI の編集原則は「元ネタが分からなくなる変更はしない」です。
見た目にはこの原則を外れてしまっているとも言えるかもしれません。
ですが、RED自体がすでに再解釈と言う道を通ってきた服であり、唯一の例外的存在。
僕の答えはこうです。
デザインの概要は元の元である501を踏襲しつつ、再解釈という構造をFUKUBORIで編集する。
501という絶対的な存在を、見事なまでに再解釈しているRED。
それは、捻じれを立体で表現するだけに留まらず、生地の取り効率や耳付き、
附属に関する思想まで体現している。本当に凄い。
だからこそ、今の自分に出来る事で真っ向から向き合いたい。
そして、生機という生地、シュリンクトゥフィットこそビンテージと捉える再解釈。
それがFUKUBORIとしてREDの編集版となる。
生地は変数だ
この製品は、2ラインのうち編集版のほうです。
Archive ではありません。その理由は #02 に書きました。
そして最後に、一つ書いておきたいことがあります。
「服は構造体である」
を掲げる FUKUBORI にとって、生地は変数です。
生機である事はこの型では絶対的な事ですが、
生機という生地と向き合い再解釈した今回も例外ではありません。
逆に言えば、構造は残ります。
今回のオリジナル生地は、この一度で終わります。
ですが、この構造を別の生機で作ることは、今後も FUKUBORI の製品として展開したいと考えています。
継続するのは構造。この生地のこの本数は、今回限りです。
次回は完成したサンプルについて語っていきたいと思います。